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2020.08.10

Cayin N3Pro開発秘話

実は、この記事は2020年の3月12日に書き始められました…

Cayin N3Proは当初2020年の第一四半期にリリースをする予定でした。Canjamシンガポール2020でデビューを飾り、その後、4月の上海の一連のオーディオショーでご紹介し、正式にリリースというプランです。その後起きたことは世界中の人が体験したように、インパクトの大きいものでした。2020年の最初の半年は結果としてN6ii用のオーディオマザーボードE02を発売したのみです。しかもこれはあくまでもDAPの構成要素の一つという製品でした。いずれにせよ、世界で起きた大変なことを目の当たりにして、Cayinはポーズボタンを押す以外に方法はありませんでした。

ですが、ここにN3Proのリリースをすることが叶いました、予定よりも半年近く遅れてしまいましたが。



真空管を搭載したオーディオ製品はそのユニークな音色や真空管を選ぶことの楽しさなどから、非常に多くの音楽愛好家から好まれています。Cayinは、この業界で創設から27年が経とうとしています。そしてその期間の全てにおいて、真空管アンプに特化して来たと言っても過言ではありません。
世界で初めての2つの音色を選択できる(シングルエンド)DAPであるN8を発売以降、Cayinはこのデザインを新しい製品にも搭載する可能性を探ってきました。ユーザーの立場に立てば、プレーヤーには革新的な機能や音質などへのニーズや願いがあるはずです。さらに言えば、音質と機能のバランスが求められています。N3Proに関して言えば、それはポータブル製品でなければならず、またコンパクトでありながら長時間の連続再生時間(これはN3Proに強く求められたことの一つです)も実現しなければなりません。加えて、コスト面での制約もあるため、N8で使用したNutube 6P1のN3Proでの使用は事実上、不可能でした。

Cayinは、真空管を使ったオーディオ製品という非常にニッチなマーケットで長い間やってきましたが、そのことがN3Proの研究開発に反映されています。例えば、HA-300真空管ヘッドホンアンプでは、1960年代に製造されたRCA(Radio Corporation of America)の22DE4ビンテージ真空管を4つ利用し、整流管として使っています。またCD-17AMKii(日本未発売)というCDプレーヤーでは、オランダ製のAmperex 6922をバッファーとして使用しています。Cayinはこういったビンテージの真空管を長年かけて集めてきました。またCayinは、製品デザインにあたって多くの可能性を残しており、そのような自由さだけではなく、真空管の十分な在庫量があったことも新しいDAPの開発にあたり真空管を選択出来た一つの理由といえるでしょう。ビンテージの真空管ですが、アフターセールスサービスも全く問題ありません。

N3Proの開発にあたっては、RaytheonのCK6418と呼ばれる真空管を選択しました。そして、この真空管はJANミリタリーグレードで、補足すると、これはJoint Army-Navyの略で、この記事の後の方でJAN6418として出てきますが、JAN6418がシルクプリントで真空管とパッケージにシルク印刷されています。 ここで簡単なJAN6418の紹介をしておきます。JAN6418は直熱のミニチュア五極管です。日本ではサブミニチュア管という呼び方に親しみがある方も多いかもしれません。製造は1970年代から80年代に遡ります。初期の主な利用方法は軍用のコミュニケーション装置のシグナルアンプとして利用されていました。JAN6418のきわめてコンパクトな構造とサイズ、さらに低電力・低ボルテージを利用することでポータブル・オーディオプレーヤーでの真空管の利用の現実性が高まりました。遮蔽格子電圧にはわずか15~22.5Vを必要とし、一方フィラメント電圧は1.25Vとフィラメント電流には10mAのみでした。全体の回路の電力消費は非常に低いレベルだったため、明らかな温度上昇はほとんど見られません。またこれらのことがプレーヤーの長時間の連続再生時間の達成にも寄与しています。ポータブルオーディオ業界においては、確かに真空管を使ったものがないわけではありませんが、主にプリアンプとして真空管を利用しているものが多く、さらにそれらのほとんどはDIY製品です。

N3Proは2つのJAN6418ミニチュア真空管をシングルエンドのフォーンアウトに使用しています。一つはL側にもう一つはR側です。N3Proでは、ひとたび、真空管モードを選択すれば、プルダウンメニューからウルトラリニアあるいはトライオードモードの選択をすることが出来ます。モードの違いにより同じ真空管でも音色の違いを簡単に楽しむことが出来ます。さらに、真空管モードのみならず、一般的なソリッドステートモードも選択可能です。

今回N3Proでは単純に真空管とソリッドステートの切替とするだけでなく、更にウルトラリニアとトライオードのモードまで選べるようにしました。実はこの方法はHA-6A真空管ヘッドホンアンプで先に実施したことがありますが、ついにポータブルオーディオでも同様の機能を実現することが出来、音楽を愛するユーザーの皆様に楽しんでいただけるのではと期待しております。

一般的な操作に関する原則は次のとおりです:

五極管の遮蔽格子の接続方法の違いにより、異なるサウンドパフォーマンスを楽しむことが出来ます。すなわち、トライオードあるいはウルトラリニアです。JAN6418真空管に関して、遮蔽格子を通したトライオードあるいはウルトラリニアの接続方法に関してネガティブな考え方が一部にあることも事実ですが、トライオードやウルトラリニア接続についてのフィードバックの量はそれぞれ異なり、また、再生周波数帯域、歪み、出力インピーダンスは接続方法も異なるゆえ、当然その結果も異なります。いずれにせよ、トライオードとウルトラリニアモードはそれぞれが明らかに異なる音質を持ちあわあせています。だからCayinはユーザーが選択して音質の違いを楽しめるよう2種類のモードを搭載しました。N3Proは電子的スイッチを使用し、回路への真空管の接続やUIからの操作を可能にしています。
トライオードモードでは、サウンドステージはウルトラリニアモードに比べて、より一点に集中するように思えます。音は非常にクリアで繊細です。サウンドイメージは非常にフォーカスされ、安定しているという特徴があります。中域はより耳に近い位置に感じられます。この様な特徴からボーカルや感情の起伏が表現される濃厚な音楽により適していると考えています。

一方、ウルトラリニアモードでは、応答速度がより良く、サウンドステージはよりオープンです。スペースを感じられ、強いバイタリティに溢れる感じを受けるでしょう。ボーカルよりも楽器が主体の音楽により適していると考えています。
これらの音質的特徴はあくまでも非常に個人的なものです。N3Proが店頭で視聴できるようになりましたら、ぜひ店頭でご視聴ください。一つのプレーヤーで異なるスタイルの音質を楽しめるのはきっと楽しんでいただけると信じています。
上記の真空管の特徴がN3Proの真空管の音質の傾向やデザインの特徴を理解することの一助になっていましたら、次にご紹介することを注意深く読んでください。Cayinは常に製品の特徴や制限といったものの分析には慣れていますが、すべてのユーザーの皆様がN3Proをご購入前にしっかりとした製品への理解をしていただくことを望んでいます。というのも、伝統的な真空管を搭載したDIY型ではないDAPというのは非常に稀有な存在で、ユーザーの皆様も使ったことがない方がほとんどだと思うからです。

【1.異なる2つの音質:ソリッドステート / 真空管】
ソリッドステートと真空管の音質の切替は、シングルエンドのフォーンアウトでのみ使用出来、バランスのフォーンアウトやシングルエンドのラインアウトなどの他のアナログオーディオ出力ではご使用いただけません。これは搭載される真空管の数と回路デザインによるもので、言い換えればN3Proのサイズ上の限界があると言えます。N3Proは現在のDAPのラインナップの中ではどちらかといえば小さい方の部類に入り、また軽量のため持ち運びは非常に容易です。

直熱型真空管JAN6418はN3Proの電源をONにした後、標準的な動作環境になるまでウォームアップ時間が少し必要です。N3ProのUI上で、これは5秒に設定されています。ただし、実際にはわずか5秒というのは、あくまでも動作環境に入ったということが言えるのみで、安定した動作環境になるまでには実質的には約15秒を要します。加えて、トライオードとウルトラリニアモードは電気的配線と電子的スイッチの動作により実現されています。これらのモードの切替時にはポップノイズが発生しますが、これはCayinのハードウエアデザインによるものではなく、現状では不可避です(正直、このことを敢えて書くことがいいのか非常に迷いましたが、ユーザーには事前に知ってほしいことの一つですので記しました)。

【2.真空管特有のマイクロフォニックノイズ】
N8で使用されている蛍光表示管に似たNutube 6P1であれ、このN3Proに使用されているJAN6418であれ、マイクロフォニックノイズの克服あるいは、いかにこの問題を回避するかということがポータブル機器で真空管を使用する上で最大の困難と言えます。さらに、直熱真空管のフィラメント構造は揺れや振動に非常に影響を受けやすいという事実があります。
Cayinの研究開発チームはN3Proの真空管モジュール用として6種類のFPCと4種類のソフトシリコン型を次々と作成してきました。また、異なる構造において衝撃吸収がいかに改善されるなどを把握するために、パーツの留め方の方法を変えたり、真空管のピン接続位置を変更したりなど、試行錯誤は枚挙にいとまがありません。


それぞれのパーツを取り付けた後がCayinにとって最も時間がかかった工程の一つと言えるでしょう。歩いている時、車に乗っている時など考えられるあるゆるシナリオでマイクロフォニックノイズをテストしました。テストを繰り返すことのみがマイクロフォニックノイズを最小限のレベルに抑えるための最良の方法の一つと考え、とにかくテストを続けました。

そして、N3Proを手に持ち、歩いたり、あるいはかばんにN3Proが入っている状態で車に乗って移動するといったシーンにおいてマイクロフォニックノイズを克服していると言っても過言ではありません。しかしながら、走ったり、N3Proのボディを手でたたいたり、またはN3Proをデスクの上に手で置くときやデスク上を手で叩くことなどで、衝撃の強さによって程度は異なりますが、マイクロフォニックノイズは確かに生じます。またお使いのスマートフォンなどの通信機器がN3Proと非常に近いと、スマートフォンなどから発せられるシグナルがノイズの原因になることがあります(斜字体部分を加筆致しました)。この様な現象は避けられません。
確かに、フィラメントが振れると、このタイプの真空管はノイズが発生します(通常は鐘が鳴るような音ですが、フィラメントの振幅の仕方によっても変わります。そしてこのノイズは5-10秒で消えます)。ここでは、N3Proは外的衝撃などのない穏やかな環境に10秒以上あれば、マイクロフォニックノイズは消えると言っていいでしょう。

皆さんには、ぜひこれらの内容について明確に理解してほしいと思っています。N3Proで使用しているビンテージの電子管の年代を考えると、当時の特別な技能では考慮に入れていない現代特有の使い方というものがあります。それゆえに、真空管の性質をしっかりと理解し、どのような状況でどのようなことが起きるか、そして正しい使用方法をぜひご理解ください。そのために、真空管というある意味ひとクセある(と同時に非常に魅力的な音色を奏でる)ものを搭載したオーディオプレーヤーのご購入の前に、この特徴を知ってほしいと思い情報公開しています。またこれらの特徴を公開することがCayinからのオーディオを愛するユーザーの皆様への向き合い方としての基本的出発点と言えます。

加えて、真空管モードでの2つの異なる音色は非常に特徴的ポイントであり、N3Proをユニークたらしめている理由の一つと言えるでしょう。事実、それだけではありません。真空管にどうしても注目が行ってしまいますが、ソリッドステートの音色はそれだけで抜群と言えるほどのサウンドクオリティです。ソリッドステートか、真空管かについてはユーザーそれぞれが異なる楽しみ方で自由に選択すれば良いと思います。世界に唯一の嗜好を持ったユーザーがこの世界には限りなくいて、そのユーザーひとりひとりに音楽をいかに楽しんでもらうかということが、製品開発の第一歩です。


N3Proの機能的フレームワークは下記で記載のとおりです。DACはAKM製AK4493EQをモノモードで2つ使用しています。アナログアンプ部においては、シングルエンドでもバランス出力でもLPF出力を4チャネル使用しています。シングルエンドの回路では、音質選択用の回路を構成するJAN6418と並行してバッファーが搭載されています。バランスアンプの回路のシグナルはこの音質選択用の回路を通過することはありません。これは直接LPFを通過した後、パワーアンプ部に入り、フルバランスの出力を実現します。

また下記が皆さんが日々使う上で特に気になるであろうバッテリー関連のスペックです。 出力は(32Ω時):3.5mmフォーンアウトで250mW, 4.4mmバランスフォーンアウトで800mWとなります。

N3Proは他のNシリーズのモデルと同様にしっかりと安定した電源供給が出来、目をみはる電気的負荷容量をほこります。それゆえ、その小さなボディにも関わらず、N3Proの出力は非常に強いレベルにあります。サウンドはダイナミックさと明瞭さで溢れていて、低域から広域まで非常に伸びやかです。音質についてはここでは敢えて描写することは控えたいと考えています。というのも、音質の善し悪しなどの評価はユーザーが最終的に決めるべきものと考えているからです。ぜひ店頭での視聴が開始されましたら、自由に試していただき楽しんでいただければ幸いです。

ここですべてを語ることは非常に難しく、制限もありますので、N3Proのデザインや特徴のご紹介はこれでひとまず終了とさせていただきます。詳細な情報やスペックなどについては公式Facebookページや株式会社コペックジャパンまでお問い合わせください。

Cayin, Never Be the Same Again.