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2024.04.26

Cayin N3Ultra開発秘話

N3Ultra:優れた真空管オーディオエクスペリエンスを提供するエントリーレベルのポータブルDAP

2024年、Cayinはポータブル製品を展開ししてから10年目を迎えます。
2020年8月17日は、N3Pro DAPの発売日です。Raytheon社製のNOS真空管JAN6418(陸海軍統合指定のミリタリーグレード部品)を搭載した初のポータブルオーディオプレーヤーとして、500ドル以下の価格帯のDAPで初めて、真空管の音色(3極管とウルトラリニア)とソリッドステートの音色のデュアルを実現した製品でした。比較的にポータブル性があり、バッテリー寿命が長く、発熱が少なく、そして適切な価格設定も相まって、Cayinのベストセラー・オーディオ・プレーヤーのひとつとなったことは記憶に新しいものです。

それから3年半が経ち、N3Proのアップグレードモデル、N3Ultraが市場に登場しようとしています。Canjam New York 2024でプリプロダクション・サンプルをお披露目し、HeadFIフォーラムでいくつかの事前情報と写真を公開しました。
本日は、N3Ultraの特徴、機能、DAPのデザイン面についてご紹介します。


写真下: 左がN3Pro、右がN3Ultraとなります。
マイクロフォニック対策に大きな進歩
N3Ultraは、真空管の音色にはRaytheon社のNOSビンテージ真空管JAN6418を引き続き2本使用しています。Cayinは長年この真空管を他の製品では使用していませんが、ポータブル製品でこの真空管をより良く使用するための回路と構造の最適化は絶えることがありません。また、JAN6418は、発熱、消費電力、電源供給など様々な制約があるポータブル製品において、電池駆動のポータブル製品に使用できる数少ない真空管です。しかし、マイクロフォニックの影響を受けやすく、無線信号の干渉に弱いという欠点もはっきりしています。

N3Ultraでは、JAN6418はカスタムモールドのシリコンハウジングに収められ、DAPの左側に取り付けられています。JAN6418はサスペンション構造でシャーシと一体化しており、チューブのフィラメントに対する包括的なストレスリリーフを実現していると言えるでしょう。一方、Cayinのエンジニアは、N3Proで元々使われていた回路アーキテクチャをさらにアップグレードしました。適切な量の段間ループNFBを導入してクローズドループ・ゲインをさらに抑制し、真空管の電源制御にFETを採用することで、真空管フィラメントの動作電流の安定性の大幅な向上を実現しています。
N3Ultraは、JAN6418のマイクロフォニック効果を効果的に克服するために、構造的な設置と回路アーキテクチャの改良とアップグレードを行いました。N3Ultraに搭載された2種類の真空管の音色のいずれかを選択すれば、手に持って歩いたり、リュックサックに入れて持ち運んだり、激しい揺れを伴うジョギング中であっても、マイクロフォニック効果が音楽体験に影響を与えることはありません。 これらの特徴は、オーディオファンが実際のリスニングや使用で検証するためにオープンなもので、JAN6418の物理的な構造上、本体の左側を指で叩いたり、テーブルの表面に物理的にぶつけたりするような想定していないような環境においては、相対的にマイクロフォニック効果が発生する可能性があります。

第3世代の真空管回路: JAN6418の実装をもう一歩先へ

N3Proと同様、N3UltraにもClassic(N3Proの3極管接続と同様)とModern(N3Proのウルトラ・リニア回路接続と同様)の2種類の真空管の音色があり、2つの回路の音色の違いをより分かりやすく表現しています。クラシックの音色は、太く、暖かく、豊かな倍音を持ち、ボーカル演奏に最適ですが、ダイナミクスとトランジェントは弱めです。モダンの音色はよりオープンなサウンドステージで、両端の伸びとリニアリティが強い。このように、ネーミングはN30LEと同じ定義に従っており、音の表現に一貫性があることを示しています。

全体的な回路構成において、N3Ultraは真空管の音色を包括的に適用することを実現し、3.5mm/4.4mmヘッドフォン出力と3.5mm/4.4mmラインレベル出力の両方で2つの真空管の音色を調整できるようになり、N3Proから大幅に機能アップグレードされました。

さらに、N3Proの真空管出力がソリッドステート出力のほぼ半分であったのに対し、N3Ultraは真空管とトランジスタの両方の音色で同等の出力を維持します。これは、Cayinのエンジニアがこの真空管回路の応用について長年研究した結果です。私たちは、N3Ultra回路におけるJAN6418の用途を変更し、低ゲインの電圧増幅デバイスとして使用し(以前はゲイン増幅なしのN3Proでバッファとして使用)、真空管固有のノイズを抑制するためにハードウェア・アナログ・ボリューム・コントローラーを組み込みました。

ただし、JAN6418はシングル・チャンネル真空管であり、1本の真空管で1つのオーディオ・チャンネルのみを処理することに注意する必要があります。N3Ultraでは、バランス出力に真空管の音色を使用する場合、音色用回路からの信号は反転され、後続の増幅段に供給される前の逆位相として機能します。厳密に言えば、4.4mmバランスヘッドホン出力とライン出力はバランス駆動されますが、これはDACからLPF、増幅までの完全なバランス回路ではなく、逆に、トランジスタの音色は、全体を通して完全にバランスの取れたプロセスを維持しています。

ポータブル真空管DAPの完全な体験

なぜN3Ultraには真空管が4本ではなく、2本しか使われていないのかと疑問に思うユーザーもいるかもしれません。

主に1970年代後半から1980年代前半に製造されたJAN6418真空管は、現代の製品に比べると比較的安定性が悪く、オーディオ製品に真空管を使用するには、同じ機器に使用する前にテストとペアリングが必要です。2本または4本の真空管をペアリングする工程は、非常に低い歩留まり率をもたらします。さらに、N3Ultraを小型、軽量、携帯性、操作性に優れ、マイクロフォニック効果を緩和するための防振構造を組み込む必要性を考慮すると、N3Ultra内に4本の真空管を収めることは物理的に不可能と言えるでしょう。したがって、唯一の現実的な解決策は、信号の反転を使用してバランス伝送と増幅を行うことです。私たちはむしろ真実をお伝えし、適切に設計され、指定された目的に対して実用的なソリューションをお届けするために、できることはすべてやったと断言します。

さらに、当時の製造工程上、JAN6418、つまり従来の真空管製品(KORG Nutube 6P1とは異なる)は、ワイヤレス信号からの干渉に対する耐性が非常に弱いという特徴があります。真空管がアンテナやワイヤレス機器に近づくと、ユーザーはヘッドフォンから「シュー」というようなノイズを耳にすることがあり、これはオーディオエクスペリエンスに影響を与え、入念に設計された真空管サウンドを潜在的な欠陥に変えてしまいます。このような問題は、OTAワイヤレスアップデートとBluetooth/Wi-Fiによる双方向音楽転送を搭載し、内部アンテナを必要とした当社の前モデル、N8とN3Proで経験しました。ユーザーから 真空管サウンドを選択した場合、音楽を聴く際にノイズが発生することが報告されており、この問題は通常ワイヤレス機能をオフにするよう指示することで解決しました。

そのため、決断したのは、N3Ultraからアンテナを取り外すことにしました。これは、BluetoothやWIFI、オンラインストリーミングなどの機能がサポートされないことを意味します。Cayinは、N3Ultraのユーザーに、ビンテージJAN6418真空管の絶妙で魅惑的なサウンドを十分に体験してもらいたいと考えています。すべての決定と妥協は、この目標を念頭に置いて行われています。限られた機能が、N3Ultraを選ぶことを躊躇させ、このDAPの流通を制限するかもしれないことを、私たちは十分に承知しています。N3Ultraの重要な側面である真空管オーディオに関連するアプリケーションとデザインに主眼を置いています。これは、ユーザーのためにHiFi専用製品を開発するという私たちの意図的な選択であり、コミットメントです。


ハードウェア構成とパフォーマンス

N3UltraのDACは、完全差動出力のMONOモードでAM4493Sチップを2個採用し、JRC製のハードウェア・アナログ・ボリューム・コントローラーNJW1195Aを搭載しています。DAPの最大出力は600mW(4.4mmバランスフォン出力、インピーダンス32Ω時)、THD+Nは0.008%、SNRは120dBです。

制御システムに関しては、N3Ultraは基本OSとしてAndroidを採用し、タッチ・ディスプレイと充電管理におけるAndroidの利点を維持するため、広範な最適化が施されています。メインプロセッサーはQualcomm 425で、N3Ultraは4.1インチHD 720×1280 TFT-LCDスクリーンを搭載し、X1000Eプラットフォームの制限(最大解像度が800×480を超えない)を破り、スムーズなタッチ操作を提供しています。
N3Ultraはまた、UIに新しいクローズド・ピュアオーディオ・システム・デザインを採用し、クリーンでわかりやすいユーザー・インターフェースを提供します。このクローズド・システムは、ハードウェアを音楽再生のみに特化しています。また、内蔵ストレージはありませんが、外部TFカードと双方向USB DAC機能、USB-Cコネクターに埋め込まれた同軸SPDIF出力をサポートしています。


バッテリー寿命に関しては、N3UltraはQC3.0急速充電に対応した4500mAhバッテリーを搭載しています。バッテリー駆動時間は、3.5mmのPOトランジスタ・モードで最大12時間以上、4.4mmのPO真空管クラシック・モードで最大8時間以上です。N3Ultraの重量はわずか200g、外形寸法は125×65.5×19.5mmとコンパクトで、片手で簡単に扱えるため、N30LEやN8iiと比較してより外出先での使用に適していると思います。さらに、回路が簡素化されているため優れた温度制御を誇り、狭い場所でも比較的暖かく保つことができるのも利点です。

最後に

3年半前に発売されたN3Proも、本日発売開始となるN3Ultraも、税込価格9万円以内という価格帯で、真空管の音色が2つとソリッドステートの音色が一つの、合計3つの音色を提供する非常にユニークな製品と言えるでしょう。限界はあるかもしれませんが、これらの製品は、真空管技術におけるCayinの30年にわたる専門知識の蓄積とブレークスルーから生まれた継続的な洗練、革新、進歩の結果と考えています。

真空管をアンプに組み込むことは誰にでもできますが、それを効果的に活用し、没入感のあるオーディオ体験を提供することはまた別のことです。Cayinは、ハイファイ真空管アプリケーションの旅において、あなたの期待に応えます。

さあ、Cayin N3Ultraが本日より日本で発売開始となります。N3Ultraとともに、音楽をより楽しんでいただけたら幸いです。